ワーキングマザー1年生との往復書簡
ある日、ワーキングマザーの友人からSOSのメールがありました。
私より一回り以上若く、大学生の頃からしっかりしたひとです。
就職したのは、比較的、女性が活躍しやすい会社だという印象の大企業。
真面目に一生懸命、キャリアを重ねてきたようでした。
赤ちゃんを保育園に預け、復職して4ヶ月たちました。
とにかく必死でやってきましたが、時間の経過と共に仕事の負担が増えていき、
満足できるアウトプットがなかなか出せなくなりました。 仕事を持ち帰ることもありますが追い付かず、助っ人が必要だと上司に相談したところ「理解できない」と一蹴され、 もはや退職すべきか悩んでいます。 フレックスや時短を利用することも考えましたが、それではできる仕事が限られてしまいます。どうしたら、「子どもの世話があるので帰ります」と堂々言い張って帰れるでしょうか。どうしたら、満足に仕事ができない自分を納得させられるでしょうか。
彼女の切迫感におされて、私は、一気に返事を書きました。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
以前、職場は独身者ばかりと伺いました。
正直、 やりづらいだろうなあと思います。
私が一人目を出産して復職した職場は子持ちのおじさまが多く、
子育ての大変さをうっすらとでも共感してくれて、 ありがたかったです。
子どものいない仕事のできる女性より、 話が通じて気持ちが楽になる面がありました。
上司の方は、 はじめてワーキングマザーを部下に持つのでしょうか。
上司の「教育」が必要かもしれませんね。
社内のダイバーシティー推進の組織なり、 ワーキングマザーのネットワークの
力を借りたり、相談なさってますか。
会社の仕組みのなかでうまくやるコツを得られたり、
運がよければ、上司へ働きかけてくださる方と出会えるかもしれません。
私は自分が上司の「教育」に直接踏み込んだことはありませんが、
ワーキングマザーを部下に持つ男性から相談を受けたことは何度かあります。
以前の会社の別の部署で、 産休に入る女性とその上司にランチに誘われ
実際どういう働き方になるのか、 いろいろインタビューされました。
別の、M&Aをやっている友人(男性)から、
部下の女性が18− 21時は子どものケアでunavailable になるのだが
そういうものなのか(その女性が要領が悪いだけではないのか)、
という相談を受けたこともあります。
また、経営者の知り合いからは、秘書が産休から戻ってくる時に
実際、私がどうやって日々をまわしているのか、
何は期待してよくて、何は期待してはダメなのか、きかれました。
要は、上司の方も手探りなんじゃないか、と思うのです。
あなたをサポートしてくれる人材の配属が来年だとすると、
まず1年間、いまの職場でどう乗り切るか、
やり方を考えてみませんか。
どうしたら、「子どもの世話があるので帰ります」と堂々言い張って帰れるでしょうか。どうしたら、満足に仕事ができない自分を納得させられるでしょうか。
切実ですね。私は、子育てしながら仕事をして10年ですが、
早く帰ることについては、年とともに多少面の皮が厚くなってきましたし、
今の職場は 非常に自由で、理解もあります。
それでも「お先に失礼します」 の挨拶は、情けないくらい、こそこそしています。
満足に仕事ができないということについても、
少しずつ、 自分への期待値を修正しているものの、
感じ ない日はありません。
一人目の子どもを保育園にいれて復職した時はピンときていません でしたが、
私の職業人生の年月の少なくとも半分は、
あちゃー、と愕然としたのを思い出しました。
(今後、介護もしなくてはならなくなるかもしれませんし…)
でも、一方で、ワーキングマザーであることは、
独身者、 あるいは子どもを持たずに仕事をしている方には
得られない成長機 会だと思うのです。
(というか、日々、そのつもりで仕事にも家庭にも取り組まないと、
あなたは、上司に期待されているようですね。
負担に感じて大変かもしれませんが、
「子持ちの女に仕事なんか頼めない」と干される( あるいは過剰に気をつかわれる)
ケースも耳にします…。ちょうどよい頃合いって、 なかなかないのかもしれません。
上司の方と、こんな相談はなさってますか。もう一歩、深められますか。
●時間の制約の中で、 自分がバリューを出せる仕事はこれだと思う、また、こういうアウトプットを期待されていると理解しているんだけど、 認識はあっているか
●会社全体の視点からみて、付加価値が相対的に低い仕事、 またはあなた以外の方がやったほうがよさそうな仕事として、これとこれがあるように思うが、どうだろうか
●時間の制約の中で、
●会社全体の視点からみて、付加価値が相対的に低い仕事、
自分対上司の対立構造ではなく、 自分がなるべく上司の目線に寄り添って
「自分+上司のチーム」対「成し遂げるべき仕事」 の構図に持って行くと
互いに解決策を話し合いやすくなるんじゃないか、 というのが私の見解です。
こういうコミュニケーションができたら、
あなたもこれまでとは違った形で、
プロフェッショナルとして成長できるし、きっと。
もうひとつ、フレックスや時短ですが、仕事内容とのバランスで
一時的にでも活用したほうが、精神的に楽になるかもしれません。
私はフレックスを最大限活用していました。
上の子ひとりの時期も、週2回、 決まった曜日にシッターさんに来てもらい、
その日にまとめて仕事をしていました。
その日にまとめて仕事をしていました。
(まれに仕事が楽な時は、ひとりで本を読んだり、 知り合いと食事に出かけました)
長い職業人生のうち、 数年間仕事がスローダウンしても大丈夫です。
まだお若いうちのスローダウンは、後で取り返せます。
40歳代後半とか50になってスローダウンするより、 遥かにリスクは小さいです。
一般論ですが、転職は、決して楽な選択肢ではないと思います。
乳児をかかえて、つまり子どもの体調不良のたびに
遅刻早退やお休みを繰り出さざるを得ない勤務状況で
新しい職場でゼロから信頼関係をつくることと、
少なくともこれまでの信頼貯金のある今の職場で
様々な交渉をすることの天秤になるのではないでしょうか。
(また、いったん完全に退職してしまうと、
また仕事に戻るのは結構大変かも…)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その後、彼女からお返事が来ました。
上司は管理職になったばかりで、
若いチームをまとめるのに彼女を頼りにしていること。
仕事の分担の見直しを提案したら、
若いメンバーの勉強にもなるから是非、と喜ばれたこと。
また、若い独身のメンバーには
「家で仕事できるんだったら、残って一緒にやってほしい」などと
ちぐはぐなお願いをされ、傷ついていたが、
今までよりも具体的に
「18〜21時は子どもの食事と寝かしつけの時間。
その後なら家からメールや電話で対応できる」と
自分の状況を共有して、連携が取りやすくなったこと。
仕事は手足を動かすことだとしか思っていなかったが、
仕事の仕方を変える視点が持てるようになった。
まだまだ手詰まりではないと希望が持てて、気持ちが楽になった、と
書いてくれました。
私も、これから2度目の「小1の壁」に直面します。がんばりまーす!