ほしのまき

FB や Tw では流れてしまうので、ためておきたいことをここに書きます。

2014年上半期もっとも示唆深かった「サーチ!」(チャディー・メン・タン著)

「サーチ!」(2012年出版)。原題はSearch Inside Yourself. グーグル本社に数ある社内研修の中で、もっとも人気のある科目のひとつ、Search Inside Yourself. その内容を、研修を設計し講師もつとめている著者が、詳細に記した本です。

【日本語訳】

サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド

サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド

 

 

【原著】

Search Inside Yourself: The Unexpected Path to Achieving Success, Happiness (and World Peace)

Search Inside Yourself: The Unexpected Path to Achieving Success, Happiness (and World Peace)

 

 

研修の目的は、EQ、言い換えると自制心や共感力など「心の筋肉」を鍛え「心の知性」を高めること。手法の中核をなすのは、小乗仏教の瞑想。キーワードはマインドフルネス。よく言えば感覚的、下手をするとグーグルのエンジニア達からアヤシイ印象をもたれてもおかしくないような…(笑)。

 

著者のチャディー・メン・タンさん、通称メンは、グーグル初期から在籍するエンジニア。人事や心理学の専門家ではないんです。有名なグーグルの「20%ルール」を活用し、自分や仲間のエンジニアにも納得できる科学的根拠、専門家のアドバイス、論理的な表現を盛り込んで組み立てたのがこの研修。社内で何年にもわたって研修を実施し、任意参加ながら、1500人以上の受講者を輩出しています。グーグル社内から、仕事だけでなく家族関係など生活全般に「とてもよかった」「効果を実感した」というフィードバックを多く得て、この本を出版し、さらにSearch Inside Yourself 研修を社外に広めるべく、事業を設立しています。

 

「サーチ!」は、facebook経由で知りました。5月初旬、アメリカの雑誌 Fast Company のウェブ記事をで紹介したんです。
イノベーション思考の礎になる定番本5冊ですって。ドラッカーしか読んでないな、私。」

Fast Co Leadership - 5 Classic Books That Have Inspired Innovative Thinking Throughout Time | Fast Company | Business + Innovation

そこに、ビジネスマンから僧侶に転じた知り合いが、記事にあるティク・ナット・ハン師のマインドフルネスの本は平易で実践的でオススメ、企業の導入事例として興味深いのが「サーチ!」だ、とコメントで教えてくれました。そんな流れから、まず「The Miracle of Mindfulness*1を読み、神秘的なイメージの「瞑想」が実践的なメソッドとして解説されてびっくりしたので、続いて「サーチ!」を手に取ったわけです。

 

そうしたら、予想を超えるオドロキと、発見と、ワクワク!読了後は周りに勧め、実際に研修を体験できる機会を探し、原著を改めて読み、毎日どこかでこの本のことを考える…と、この数ヶ月の私の通奏低音のようになっています。なぜそんなに?

 

まず内容をごく簡単にご紹介します。

 

 

●「EQ」(ダニエル・ゴールマン著、1995年)によると、仕事や人生の成功をもたらすのはIQよりも、感情をコントロールする自制心や他者に共感し協調する力だ。

●著者は、「EQ」の定義と「マインドフルネス」は、同義であることに気づく。マインドフルネスは瞑想によりトレーニング可能なスキルであることを、著者はすでに経験していた。

●心理学、脳科学からマインドフルネスを研究している科学者と組み、修行中の僧侶ではなく、グーグルで忙しく働くエンジニアなど一般社員が、日常の中で実践できる研修プログラムを作り上げた。

●マインドフルネスを鍛える研修の主なステップは、3つ。*2

①注意力を高め、平静で明晰な心の状態を得る。

②自分の考えや感情の動きを明確に、客観的に把握する。自己理解の解像度が高くなる。

③会う人、会う人に、「この人が幸せになるように」と本気で願うような、心の習慣を新たに身につける。

 

 

私がここまで「サーチ!」から強い印象を受けたのは、個人としても仕事の面でも、示唆するところ大だったから。

 

1. 自分もこうなりたい。トレーニングを積めばなれるかも、と思うだけでワクワク!

 

自制心と共感力のあるひと、憧れちゃいます。仕事でも生活面でも、自他ともにハッピーで充実している人はIQじゃなくてEQの高さがポイントよね、ということも、40歳代半ばも過ぎれば周囲をみて実感します。でも、それは持ちまえの性格やセンスであって、トレーニングでほんとうに身につくなんて想像したこともありませんでした。

トレーニングの内容も、簡単な自己啓発書にありそうな「毎日誰かに感謝のメールを送りましょう」といったアドバイスよりずっと体系的で、しかも仏教の長い歴史とともに育まれてきた手法に基づいているのです。実際、本に解説されているとおりにやってみると、なんとなくいい感じなんです。

今の私は、本で自転車の乗り方を学ぶようなことになっているんでしょうし、もし本当に研修を受けてみたら、運動神経が鈍いがごとく「EQ感度」が鈍くて落ちこぼれる、なんてこともあるかもしれません。でも、鈍臭くても先生に教わりながら練習すれば、自転車も縄跳びもできるようになるように、EQが高められるとしたら。グーグルという会社で、それが実現しているわけだし。とってもワクワクします。

 

2. 現職で教わってきたクリエイティブの基本姿勢に酷似している。びっくり!

 

「感覚」の感度を高める。自分の考えの動き、感情の動き、無意識のうちにやっていたことを、客観的に、第三者からの視点で詳細に把握する。今の職場で、とても大事にしていることです。以前、日経ビジネスオンラインに掲載いただいた対談記事でもふれました

「ほぼ日」が愛される理由:日経ビジネスオンライン

 

ー*ー*ー*ー*ー

便座って、普通に座るとちゃんと収まるように作られているんです。横を向いて座ると、ものすごい違和感がある。便座が上がった状態で座っても、ほんの数センチなのに気持ち悪い。糸井はそれを「なぜなのかを考えろ」という。つまり不愉快さを要素分析せよ、と。

 巨人ファンなのに、阪神ファンのつもりで試合を見るというのも、それです。

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ー*ー*ー*ー*ー

人間は、放っておくと知らず知らずのうちに嘘をつくんです。感じたこと、考えたこととは違う言葉を使う。思ってもいないことを言ってみたり。だから本当に感じていること、本当の動機は何か、そこを突き詰める必要があるんです。

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まるで将棋の後の感想戦のように、自分の考えの変遷や感情の動きを客観的にふり返り、再構築し、批評する。糸井や先輩乗組員たちが実際にそのように行動し発言し、常に努力しているのをお手本にしてきました。

 

「価値をうむ行動」として社内で大切にしていることが、EQとかマインドフルネスのトレーニングと、これほど重なるとは。ちょっとした発見なのですが、ついうれしくて興奮してしまいました。

 

 

3. 今の職場の中の「暗黙知」を「形式知」にするだけじゃなく、研修可能なメソッドにできるかも

 

 
こちらのエントリーに、三枝匡さんが「すぐれた会社はフレームワークを共有し、実行できる」と教えてくださったと書きました。

 

リーダーの力は、フレームワークを作る力、作る個性 - ほしのまき

 

 
今、わたしの職場では社長がチームと一緒にクリエイティブを発揮しています。乗組員は、60人程度。今後、新しい仲間を次々に迎え、長きにわたって事業を栄えさせていきたいので、フレームワークをつくり、社内に共有できるよう、試行錯誤の真っ最中です。
 
私は、今の職場でのフレームワークの共有は、主に仕事の経験を通じて行うもの、分かる人にはすぐ分かるが、難しい人にはどんなに一緒に仕事をしてもなかなか通じないもの、というイメージでいました。しかし、Search Inside Yourselfは、「EQ」というセンスの領域と思われるフレームワークを、「スキル」として多くの人が学んで実行できるようなメソッドにのせました。グーグルの社内だけでなく、グーグルの文化や文脈とは関係ない外部にまで研修を展開しています。これって、大げさに言えば、経営リーダー教育におけるケース・メソッドの発明に匹敵するくらい、すごいことだと思うんです。そして、私の職場の暗黙知だって、フレームワークにした後、さらスキルとして集合研修で共有・実行ができるかもしれない。社内だけでなく、社外にも広げて世の中に喜んでもらえるかもしれない。わはははは…と、妄想が膨らんで、楽しくなっちゃったのでした。
 
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
 
関連リンク
Search Inside Youself 研修事業

*1:「マインドフルネス」がバズワードになりつつあるようですが、どうやらおおもとはこの本のようです。私はFast Companyの記事と友人のコメントで初めて「マインドフルネス」を知りました。

*2:メンのTEDスピーチからとりました。