リーダーの力は、フレームワークを作る力、作る個性
先日、ミスミ元会長の三枝匡さんの講義をうかがう機会に恵まれました。
三枝さんは、30歳代で2つの企業の社長をつとめた後、売上数百億円規模から兆円規模まで、複数の日本企業の業績立て直しに携わってこられました。どのケースもリストラなしで、高成長、高収益に回復させていて、その様子は小説仕立ての著書3部作にまとまっています。ロングセラーの3部作のほか、経営学者の伊丹さんとの対談集「日本の経営を創る」も大好きで、この講義は「ご本尊の肉声をきけるなんて…」とわくわくしながらのぞみました。
以下3冊が「3部作」です。
経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)
- 作者: 三枝匡
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2003/03
- メディア: 文庫
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講義は一言一句、得るところ大でしたが、中でも毎日のように思い出していることがあります。
経営リーダーの力量は、フレームワークの蓄積・解凍能力で決まる
「経営リーダー」。あまり一般的ではない表現ですね。三枝さんのおっしゃる「創って、作って、売る」、商品やサービスを企画し(創って)、生産したり実現して(作って)、顧客に届けフォローする(売る)のワンセット全体に責任をもつ仕事をしているひと、だと私は理解しています。会社によっては大きな事業部のトップになるかもしれません。私の職場では3人くらいの小さなチームで商品企画の「創って、作って、売る」がまわっています。
さて、その経営リーダーとは、どんな仕事をするのか。
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経営リーダーの仕事は3つ。
1.なぞ解き。目の前の混沌とした問題を「単純化」する。「これは、こういうことなんだよ」。
2.説明。問題をシンプルに、熱く語る。(熱さが、その人の個性)
3.行動を束ねる。人々の行動を集中させる。
経営リーダーの力量は、1つめのなぞ解きの力 = フレームワークの蓄積・解凍能力で決まってくる。
フレームワークとは、経験・知見を単純化し、抽象化して、
「考え方、見方、構図、概念、コンセプト」に転化したもの。
目の前の混沌としているように見える状況について、
原因と結果を見抜き、それをたくさん蓄積して敷衍化したもの。
フレームワーク(=引き出し)が多い人は、
組織の解決行動をスピードアップできる。
混沌の本質をいつも解き明かし、問われたらすぐこたえられる。
目の前の問題を、初めてみる個別のその場限りの状況としか思えないひとは、
自分の過去の経験、先人の学び、 普遍的なものの見方、概念などを
利用できることに気づかず、より賢い行動をとることができない。
学者は抽象化=普遍的なフレームワークづくりが仕事。
経営者は、解凍能力、つまり
適切なフレームワークを引き出しから取り出して、現場に適用し、問題解決するのが仕事。
強い経営者は、フレームワークを作れる。
強い企業は、フレームワークを生み出し、共有することに長けている。
フレームワークは、単語 → 構図 → コンセプト/原理/思想 と3段階でレベルアップする。
コンセプトのレベルまでのものを生み出すには、
自社内の経験を抽象化して蓄積したものに加えて、
異種・異分野のものの見方やコンセプトも引き出しに持つことが必要。
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フレームワークを原理原則と言い換えてもいいですね。社内で力になってくれるひとは、フレームワークを共有できてる。意見の合わないあのひとは、きっと違うフレームワークを持っている。そんなふうに考えることもできそうです。
中でも含蓄があるなあ、と思ったのは、最後の「フレームワークの3段階」です。
素人考えですが、イメージをつかみやすくするため、家具のIKEAを理解するフレームワークを3段階にしてみました。
レベル1:単語 「安くておしゃれな家具」
レベル2:構図 他社とは異なり、バリューチェーンに購入者を巻き込んでる。
購入者が店舗で家具を倉庫状の売り場でピッキングし
組み立てることで、「安くておしゃれ」な家具を提供する
レベル3:コンセプト デモクラティックデザイン - IKEA
フレームワークの蓄積・解凍の仕方に個性が表れる
さて、どのようなフレームワークを真似し、蓄積し、いずれは生み出すようになるか。これが経営リーダーの個性、ひいては事業の個性になるんだな、と思い当たりました。 目の前におる状況は、ちゃんと対応すべきか放っておいてよいか、good news か bad newsか。同じ状況に出会っても、それがどんな意味でどう行動したらいいか。ひとや事業によって、抽出する意味合いはかわります。
この点に関連して、ピクサー社長であり、ディズニー・アニメーション・スタジオの責任者でもあるエド・キャットマルが、最新刊「Creativity, Inc.」で紹介してる章が示唆深いと思いました。
Creativity, Inc.: Overcoming the Unseen Forces That Stand in the Way of True Inspiration
- 作者: Ed Catmull,Amy Wallace
- 出版社/メーカー: Random House
- 発売日: 2014/04/08
- メディア: ハードカバー
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詳しくはこちらに書きましたが、
ピクサー社長エド・キャットマル (Ed Catmull)の新著からのメモ −その2|篠田真貴子|note
人はだれしも、自分のまわりの世界を整理し理解するために、「型」をもっている。そして一緒に働いている者どうしは接点が多く、長い時間を共有しているために、「型」が互いの存在と深く結びついて、不可分になっている。こう書いているんですね。
エドは、この章では「型」のもたらすマイナス面に焦点をあて、それを回避したり和らげる工夫について筆をすすめています。ここで私は一歩ひいて、「型」そのものの存在と、それが近しい人間関係と深く結びついているという洞察を、三枝さんの教えてくださった「経営リーダーの力はフレームワークを蓄積し、解凍する力で決まる」とセットで理解しておこうとおもったのです。
粘り強いチーム、アイディアがどんどん出るチームは、リーダーがそういうフレームワークを持ち込んでいるのでしょう。さらに、ほかのチームに所属していた時は普通のはたらきの人が、そのチームの中では大きく力を発揮して育つ、ということが起きるのは、チームの人間関係とフレームワーク理解・実行力が密接に結びついているんだな、という視点が整理できました。採用など、チームに新しいメンバーを迎える時に既存メンバーとの相性を確認するのも、単に仲良くしたいということではなく人間関係のあり方とチームのフレームワーク共有が不可分だからなんですね。人事異動や転職も、職場の人間関係を刷新して、その人やチームが持つフレームワークもリフレッシュする効果があるんだと思います。
経営リーダーの力はフレームワークの力であり、フレームワークは人間関係と密接につながっている、という考え方下敷きにすると、職場にダイバーシティが必要だとか、外部取締役を増やそう、といった議論もより本質的になります。経営リーダーは、レベル3のコンセプトを生み出すことを目指したい。それには異分野のコンセプトを引き出しに持つことが有効。フレームワークと人間関係の密接なつながりを踏まえれば、異分野のコンセプトを身につけたひとをチームに迎えるのは、経営リーダーとして力を高め、レベル3のフレームワークを生み出すのにおおいにプラスになるはずです。
フレームワークを自ら生み出すのは、並大抵のことではありません。三枝さんも、はじめは既存のフレームワークを真似し、自分の現場に応用することからスタートするんだ、とおっしゃっていました。
私も、三枝匡さんの講義やエド・キャットマルの本から教わったことを、日頃の仕事や生活の中で引き出しから取り出して便利に使ってきました。このフレームワークをちゃんと自分のものにしたくて、そのステップのひとつとして、ブログに書いてみました。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。